今はすっかりはっきり冬だけど
秋の木々が紅葉する頃の空気の感じってあるでしょう、
肌寒くなり空が高くなる頃の。
東京と俺の育った土地では暦の上では1ヶ月から2ヶ月ほどの
ズレがあっても、紅葉の頃の空気感というのは同じニオイがする。
澄んだ空気のニオイというのか。
そのニオイがすると思い出すのは
スーパートランプのブレクッファーストインアメリカという曲。
情報が少なかった田舎で日曜の午後からラジオでやっていた
アメリカントップ10みたいな番組をむさぼるように毎週聞いていた。
秋の日、親父が運転する車に乗ってこの番組を聞いていた。
ブレックファーストインアメリカが1位だった。
肌寒く抜けるような秋晴れの日にその曲はよく似合い
なんていい曲なんだと思った。
その情景がすりこまれ、その時と同じ空気感を感じると
頭の中には自然とブレックファーストインアメリカが流れる。
車をたんたんと走らせる親父。
寒くなってくるといつも軍手をしていた。
小さい頃その軍手をした手で顔を拭われたりすると
親父のニオイがした。
軍手に染みついた親父のニオイ、
そのニオイは俺を安心させた。
その後なにかにつけ親父に反発し
二人の仲はギクシャクしたものになってしまった。
そんな親父も10年前に死んだ。
死んだ時は関係を修復することなく逝ってしまった事にたいして
少なからずショックではあったがそれほどの悲しみはなくて
葬式や通夜でも涙が出ることはなかった。
時は流れて最近のことだが、
薄い作業用の手袋をして仕事をしていた。
その手袋をした手でなにげなく鼻のあたりを拭った時、
自分の手からふいに忘れていた親父のニオイがした。
驚いた。
いきなり死んだ親父に会ってしまったような驚きで
思わず後ろを振り向いてしまったくらい。
いろんなことが頭をぐるぐるしてしまい
その場から動けなかった。
まぁ、はっきり言ってただの加齢臭なのだろうが
人間の記憶というものは奥深い。