先週の山旅 とんぼとかえるの王国へ (前編)

日が落ちた後の日本海を後にして新発田の町を抜け
町外れの国道沿いのステーキ屋で坦々麺と焼肉丼のセットを食う。
店の窓に数えきれないほどのかえるがへばりついている。
緑色の体長3cmほどのかえる。
そいつらの腹を見ながらうまくもない坦々麺をすする。
坦々麺があると衝動的に頼んでしまうのよね。
夜の国道を窓全開でのんびり流しコンビニで今夜のビールを買い
小国の道の駅で水を汲んで国道を離れ登山口に達する道に入るが
いっこうに登り勾配にならない。
ほとんど登らないまま道のどん詰まり、登山口まで来てしまった。
なるほど、深いんだねェーと感心する。
空は満点の星だ。
いくつもの流れ星を眺めながらビールを飲んで就寝。


4時起床。
青空。
支度に手間取って5時半出発。
一般車通行止めの林道をしばらく歩くことになるが
歩き出してすぐに後ろから軽トラが来て乗っけてくれた。
登山道の草刈をするそうだ。
いろいろお話をする。
帰路のダイグラ尾根の最後のつり橋の事を聞くが
仮橋をかけるつもりでいるけど今年は無理かもしれない、ということであった。
あのつり橋が壊されるなんて信じられないことだという言葉が印象的だった。
水量を聞くとものすごく多いとのことで
渡渉は厳しいですか?
無理無理。流されて死ぬよ。
やっぱり。
これで一周する縦走コースは無理になった。
林道終点で下ろしてもらい登山道に入る。
どーすっかなーと悩みながら歩くが豪雨のせいで道が荒れていて
そんなこと考えている余裕はすぐになくなった。
沢がらみのトラバースなところはことごとく崩れていてずるずるで
一歩でも滑ると谷底まっさかさま。
完全に崩壊したところの高巻きの高巻きの高巻きみたいなとこは
でかい荷物だとかなりきつかった。
高巻きのとこから見る崩壊した雪渓が大迫力。
家2戸分くらいの雪の固まりがズッカンズッカン崩れているのがすごい。
その手前は土石流のあとで大量のチョコレートを流したみたいになっている。
悪戦苦闘して石転びの出会いに出た。
ちょっと休憩して雪渓に乗る。
ものすごくいい天気で雪が眩しい。
ストックを出して左岸から右岸へ移動しつつ登る。
合流地点からすぐの左岸側がぽっかりと崩落していて
その周りは縦にもクレパスが開いていて怖い。
いちばん狭くなっているところはちょっときわどいスノーブリッジで
もうちょっとしたら崩れるだろう。
緊張しながらそそくさとこえる。
しばらくいったところでアイゼンをつけた。
刻一刻とガスによって景色が変わるのを楽しみながら
汗ダラダラ流しながらじっくり登る。
素晴らしい景観。
ニヤニヤ笑っている自分に気づく。
人っ子ひとりいない。
叫びたいほど気もちがいい。
徐々に傾斜がきつくなり雪渓の真ん中に中ノ島が見えてくる。
落石の跡が増えてくる。
と、上部の右の沢からズガーンというどでかい音。
落石だ。
沢自体はまだ岩場の陰になって見えない。
と、一抱え以上ある岩が飛んでその岩場の上に見えた。
身が凍る。
岩はすぐに目の前に飛び出してきた。
ものすごい勢いで飛び跳ねながら本沢を横切って
対岸に轟音とともにぶち当たり砕け散った。
こわー。
幸い100m弱手前にいたから良かったもののあんなの直撃したら即死だよ。
これからあの落石のコースを横切ると思うと緊張感が高まる。
最もリスクが低そうなルートで一気に越える。
中ノ島に取り付くのも土石流の跡でけっこうやっかい。
なんとかとりつくとそこには無数のトンボが乱舞し
足元には1mおきにかえるが飛び跳ねるとんぼとかえるの王国だった。
最後の傾斜のきつい雪面を登りきって稜線に出た。
11時半、梅花皮小屋着。
ヘリで荷揚げされたビールを運ぶ小屋の親父さんに挨拶して
いろいろ話を聞く。
やっぱりダイグラ尾根はまだ無理だとのこと。
この時間に登って来れるのだから御西まで行くといいよ。
ただ明日は天気崩れるかもしれんぞ。
と、空を見上げながら親父さんは言う。
よーし、行くか。
じゃ、そうします。
明日また帰ってきますよ。
風裏でザックを下ろして行動食をとり、気持ちのいい水場で水を汲み
親父さんに見送られながら稜線の道を出発。
ここからの稜線歩きはかとーさんの言うとおり天国のようだった。
歩きやすい土道。
咲き乱れる花々。
美しい雪田。
どこか道東の山を思い出させてなにか懐かしい気にさせる。
あの長く美しく険しい沢の源にはこんな世界が広がっているのだなぁ。
稜線にもトンボが乱舞しかえるが1mおきにとびはねていた。
名もなきピークの岩の直前まで来たところで
バサっという音で驚いて前を見ると大型の猛禽類が飛び立ったところだった。
音もなく悠然と切れ落ちた谷を滑空していく姿は感動的に美しい。
素晴らしい稜線歩きを堪能しながらも
長い行程でかなり弱りながら御西小屋直下まできたところで爆音が。
荷揚げのヘリだ。
よく音だけは聞くのだけどちゃんと見れたのははじめてだ。
なんか迫力あるなぁ。
2時半御西小屋着。
小屋番に挨拶してテントを張る。
ここまで学生の1パーティーとしか会わなかったけど
小屋はけっこう人がいる。
テン泊は俺ともう一人の単独の人だけだ。
しかし、今日の風向きではここは風裏がほとんどなくて
張る場所に悩む。
水を汲みに行くがかなり汲みずらい水場で難儀した。
他の皆さんも行くの躊躇していたみたいで
俺が帰ってきたら質問攻めだった。
しかしあの道の付け方はないよなぁ。
メシ作ってたらいきなり虹が出た。
お隣さんのテント山行者に教えて二人で並んで眺める。
60間近のオヤジさんで飯豊を4回に分けてすべてのピークを
まわるのだそうだ。
今回はそれの最初ってことだった。
アライの真新しいテントが微笑ましい。
素晴らしくきっぱりはっきりしたいい虹だったのだが
話しこんでしまっていい写真は撮れなかったが、まぁいいさ。
虹が消えてメシ作りを再開。
飯を食って眠気がこらえきれず寝たのは6時半。
下界では考えられんが山の上ではそんなもんだ。


続く